T氏。電機メーカーに勤務する四〇歳。妻と子供二人の標準家庭。住宅金融公庫から平均三・五パーセントで一〇〇〇万円を借りて、五年前にマンション購入(マンション価格は二二〇〇万円)。ITブームの時は残業残業で忙しかった。その分、お金もたまり、現在三〇〇万円ほどを郵便局の定額貯金に入れている。金利は一〜〇・一%だから、ほとんどすずめの涙。常識的には貯金を解約して、繰上げ返済すべきだろう。圧倒的に効率が違うから、ほとんどのノウハウ本ではそう勧めるケース。だが、T氏は意に介さない。ご本人は多めの月々の返済とボーナス返済をきちんきちんと続けている。その貯金は人生の気持ちの余裕なのだそうだ。現在ではITブームもまっさかさまに落ち込んで、ボーナスも少なくなってしまった。半減したときもある。リストラに追い込まれた同僚もいる。相対的にローン返済もきつくなっているはずで、いくらかでも前倒しで返済すれば楽になるのは間違いなく、T氏自身もそれは認識しているが、厳しいながらも方針は変えない。その理由のひとつは、返すならいつでも返せると思っているからで、どうにも耐えられなくなったら返そうと思っている。もうひとつは、自分もいつリストラにあうかわからない状況になってしまっている。もちろん、その際は退職金の割り増しなんかがあって、ローン返済はできるだろうけれど、万一の際、いつでもキャッシュにできる貯金を三〇〇万円も持っていれば、気持ちに余裕ができる。そのまま取り崩しても二年分くらいのローン支払いに充てることもできる。キャッシュというのは、いろんな選択肢を持っているのだ。金利の三パーセント台の差というのは、その余裕のためのコストと考えているのだ。